緑茶ポリフェノールの論文に批判的な記事がNHS(National Health Service, イギリスの国営医療サービス事業)に出ています。
http://www.nhs.uk/news/2011/01January/Pages/green-tea-and-alzheimers.aspx
批判の対象となった論文は
Okello et al. In vitro protective effects of colon-available extract of Camellia sinensis (tea) against hydrogen peroxide and beta-amyloid (Aβ((1-42))) induced cytotoxicity in differentiated PC12 cells. Phytomedicine : international journal of phytotherapy and phytopharmacology (2010) PMID: 21183323
とおもわれますが、緑茶をin vitroで消化させ30種類以上のポリフェノールが残ることを確認し、神経細胞へのH2O2とβamyloidによる細胞障害が、これらのポリフェノールで保護されるかどうかをvitroの実験で検討しています。PC12というラットの褐色細胞腫のcell lineをNGFで分化させ神経細胞として使用しているようです。
この手の論文で必ずついて回る批判が「Cell lineへのふりかけ実験に過ぎない」ということです。
さらにin vitroで消化させた(試験管内で酵素や酸や胆汁で処理した)緑茶が果たして実際に人間が飲んで消化されたものと同一かという問題もうやむやのままです。どの物質が効いていたのかという検討も済んでいません。さらにさらには、ポリフェノールの濃度が薄い0.3125µg/mL方が濃い5µg/mLより細胞保護作用が強いという結果になっており、批判の的となっても仕方ないと思われます。
PhDのための実験をしている身としては「人の振り見て我が振り直せ」ですが、この論文を根拠にアルツハイマー予防に毎日緑茶を一杯という記事を書いてしまうメディアも問題があります。
Daily cup of green tea 'could ward off cancer' | Metro.co.uk
A cup of green tea, the daily guard against Alzheimer’s. The Daily Telegraph, January 6 2011
51の研究によるsystematic reviewでは緑茶に抗ガン作用があるとは言えていません。最後は、良い食事、運動、健康的なライフスタイルが重要と結んでいます。
とはいえ、AzCIMでは緑茶を推奨しています。
最近Weil先生の一般向けのブログで5 Reasons to Drink Green Teaという記事があります。
緑茶ポリフェノールを採る事で
1)コレステロール低下作用と心疾患予防にPMID: 9395277, PMID: 940925, PMID: 12409979
2)細菌感染予防に
3)関節と骨の健康のために
4)抗炎症作用
5)抗菌剤の効果促進
を期待する事を理由として挙げています。
心血管病変に効果がなかったという論文もいちおう挙げておくとPMID: 8702089, PMID: 9129481
統合医療はエビデンスがすべてではありません。エビデンスが存在するかどうかと患者さんに緑茶を勧めるかどうかは全く別問題なのです。これらのエビデンスの事実を知りつつ、勧めるかどうかは個々の患者さんの病状や背景によります。
systemic reviewでも日常の緑茶摂取は問題ないと結論づけていますので(そんなことは毎日飲んでる日本人が一番知ってますが・・・)安心して勧めることができます。